大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(う)1129号 判決

被告人 須藤文二

〔抄 録〕

案ずるに、およそ猟銃のような危険物を使用して野鳥を狩猟する場合には、射撃により人の身体に傷害を与えることのないように細心の注意を払い、いやしくも狙撃の対象が実は人であるにもかかわらずこれを野鳥と見まちがえるが如きことは万が一にもないようにしなければならないのは当然であつて、それがためには発射前よくその対象を見極め、それが野鳥に間違ないことや、附近に人影のないこと等を確認した上でなければ発射しないようにし、もつて危険の発生を未然に防止しなければならないことはいうまでもないところであつて、これは猟銃を使用して猟銃をする者に課せられた最小限度の注意義務であるといわなければならない。もし、この注意義務を怠り軽々しく猟銃を発射し因つて人の身体を傷けるようなことがあれば、それは注意義務を著しく怠つたものであり重大な過失というべきである。本件においては、原判決の挙示する証拠特に司法警察員作成の実況見分調書、被告人の司法警察員、検察官に対する供述調書並びに原審公判廷における供述によれば、被告人は十六番二連発猟銃を携え野鳥を射とうとして原判示千葉県印旛郡四街道町字物井字出口一四〇一番地先山林に到つたところ、折柄十二米余離れた同所の松山に生立つた松の木の上に登つて地蜂の巣の在る方角を見定めようとしていた河面初男の姿が周囲に繁茂した樹枝や萱等に遮られてその全貌が見えず、僅かに黒い形のものが動いているように見えたのであるが、被告人が立ち止つた場所より少しく北側に廻つてこれを確かめればその人間であることを認め得たのにかかわらず、不注意にも、場所をかえてそれが果して野鳥であるかどうか人間でないかどうかを確認することをせず、軽卒にもこれを鳩であると即断し、瞬時にこれを狙つて猟銃を発射し、散弾を右河面に命中させ、よつて同人に原判示のような傷害を負わせたものであることが認められるのであつて、右のように猟銃発射前に被告人がその鳥の形のものが人間でないことを確めることをせずに直ちに猟銃を発射したことは狩猟者に要求される最小限度の注意義務を著しく怠つたものというべく、その注意義務の懈怠は被告人の重大な過失であるといわざるを得ない。されば、かりに、所論のように十一月中旬頃はその地方の農村では田畑の仕事が繁忙な時期であり農民が山林に入ることは極めて稀であり、又地蜂の巣を採つて歩く人のあることが一般に知られておらず、松の木の上に人が登つているなどとは考えられなかつたとしても、被告人に本件猟銃発射により河面に与えた傷害について重大な過失がないとはいえない筋合であるといわなければならない。

(長谷川 山下 白川)

註 本件は量刑不当で破棄

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